2013年10月18日

元 「読奨生」 の西の空  『鳥かごの詩』 ― 9


新聞配達を辞めたいと思う気持ちと「

 これまでも書いてきたように、奨学生制度というのは、新聞配達をしながら大学や専門学校、予備校などに通うものである。
 入学金授業料を新聞社が学校に直接払い、学生は販売店から食費を天引きされた給料をもらう。部屋は無料で貸してくれるのがふつうであった。

 新聞社が払った入学金や授業料は、「貸与」 という形になっており、もし契約期間である4年や2年を待たずに辞めてしまうと、それまでに 「貸与されていた」 金額を即座に(1か月以内くらいに)返却しなければならないことになっていた。
 今ではどういう制度になっているのかは知らない。

 朝早く起きて新聞を配達し、大学に通い、また夕方には帰ってきて夕刊を配り、集金業務定数表(読者名簿)や順路帳(配達順路を示したもの)を書くこと、拡張業務などをやっていると、まさに時間がない。当然、友達づきあいも希薄になる。辛いのは確かである。

 途中で辞めてしまう者も、当然いた。

 私は、この制度の期生である。年もこの制度をやっていると、新聞社でも、新入生がいつ頃辞めたいと思い始めるのか、一度辞めるのを思いとどまったとしても、また、いつ頃再発するのか、といったようなことは熟知していたのであろう。私たちが辞めてしまおうかと思い始めることになると、不思議と何らかの催しものが行われるのである。

 新入生が入って1か月くらいで 「歓迎会」 がある。辛い新聞配達をしながら学校に通おうというのであるから、当然、親元は裕福ではない。41年前の九州である。歓迎会で豪華な食事にありつくと、「続けよう」 という気になってしまうのである。

 秋には、プロ野球のオープン戦が九州にもやって来て、その観戦をしたり、読売巨人軍の選手たちのサインボールをもらったり、いっしょに写真を撮らせてもらったりする。

 そうした中に「アタック・イン・サマー」というのがあった。夏休みのあいだの奨学生による拡張業務合戦である。

 夏休み明けに、北九州と福岡を合わせた奨学生(当時300人くらいはいた)の成績優秀者が、表彰されるのである。


 この「アタック・イン・サマー」の一環で、夏の最も暑い時期の1週間ほど、他店交流で拡張業務合戦というのもあった。

 朝時頃に他店に行き、区域の担当者に案内されながら、「あの家はM新聞で、うちから半年前に乗り換えた」 とか、「あの家はA新聞で、今までA新聞以外を読んだことがないらしい」 などという情報を得ながら、新聞の勧誘業務をやるわけである。

 昼過ぎごろに販売店 (他店) に戻り、ちょっと豪華な昼飯を食べながら、購読契約書を提出して勧誘料を精算してもらう。
 当時、半年以上の契約を取ると千数百円がもらえた。1週間くらいの他店交流での拡張業務合戦で、勧誘料が月の給料を上回る強者もいた。

 夏休みの 「アタック・イン・サマー」 のあいだでは、かなりの臨時収入を手にする者も多かった。


 こういった臨時収入が、「辞めたい」という気持ちを萎えさせる要因ともなっていたのであろう。
posted by 赤井田拓弥 at 17:26| Comment(0) | 鳥かごの詩
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