2017年03月17日

「高校の英語授業は英語で」という話と、英単語のカバー率のこと。


 「英語の授業を英語で」ということがよく話題になります。実際にどういう授業になっているのか、現場ではない私にはよく分からないのですが、先生がすべて英語で話し、生徒はそれを聞いて理解し、英語による質問などにも英語で答える、という授業だとしたら、生徒の語彙力の面から考えても、無理ではないかと思います。

 先生が生徒たちに話すことを理解してもらうとしたら、生徒たちが理解できる語彙レベルで話さなければなりません。

 高校に入学したばかりの生徒たちは、最大でも1,500語程度の語彙力しかないはずです。しかも、その学習語彙はすべて、「文の中に含まれて使われ、瞬時に音と内容を理解できる」理解語として身についていなければなりません。

 日本語の語義をなんとなく知っているだけでは、ダメなのです。

 それほど高度な英語力を持った高校生がどれほどいるのでしょうか。

 それはさておき、単語のカバー率ということに、ちょっと触れておきましょう。


80%の理解力

 また、よく英語の本などを読むとき、「8割の単語が分かれば、あとは意味を類推することができる」という人も多いようです。単語のカバー率のことですね。

 ある調査によると、次のような単語のカバー率の結果が出ています。

2017-03-17-2.jpg


 3,000語で84%です。上の「8割の単語が分かれば、あとは類推で」という説によれば、あとの16%は類推して読み進んでいける「簡単な文章」ということになりますね。

 5,000語だとどうでしょうか。88.6%ですから、「残りの11.4%の類推は十分に可能」と思われそうですね。

 ですが、そうでしょうか。次の文を見てください。英字新聞の記事の書き出しです。

  Of the foreigners held in Immigration Bureau detention centers pending deportation for staying illegally in Japan, 558 were minors-300 boys and 258 girls, the government said Friday.

 この中から頻度5,000を超える語彙を省略して,その代わりに ... を挿入してみましょう。すると、次のようになります。

  Of the foreigners held in ... Bureau ... centers ... for staying ... in Japan, 558 were ... -300 boys and 258 girls, the government said Friday.
 
 何のことなのか、まず理解できませんね。3,000語レベルの語彙力だとまったく歯が立たないことでしょう。

 次の新聞記事の場合はどうでしょう? 頻度5,000を超える語彙は(  )の部分の1つだけです。

  Russian authorities have charged a former U.S. Navy officer with (  ) after holding him in a Moscow prison for more than a week, saying he had tried to obtain military secrets, officials said Thursday.


 意味が類推できましたか。
 
 この(  )に入るのは espionage という語です。
 この語がキーワードになっていますから、ほかの語がすべて簡単なレベルの単語であっても、結局、全体の意味は理解できないということになるわけですね。


 つまり、中学を出たばかりの高校生に英語で話しても、とても理解して授業について行けるはずがないということです。

 上で示した5,000語レベルというと、高校卒業時点くらいになるかと思いますが、それでも、あとの15%を類推して類推して理解するのはほぼ不可能と言えますから、結局、高校の英語の授業を英語で行うという発想自体が、現実を理解していない「絵空事」だということですね。


では、理解できる簡単な単語だけを使って授業をすれば?

 「日本人の先生方がそんなネイティブレベルの語彙を使って話せるわけがない。高校生が知っている単語だけを使って授業をやれば、生徒たちも分かるではないか

という声が聞こえてきそうですね。

 しかし、このことは、逆に先生方にとって大変というか、ほぼ不可能です。

 このブログに出している Voice of America の英文は Learning English という、特別に訓練を受けたライターたちが書いています。Voice of America は、アメリカ大統領直轄下の United States Information Agency (あの CIA もあるところ)が運営しているラジオ局です。

 アメリカのことを世界中の人たちに理解してもらうためにやさしい単語と英文を使って放送していますが、ライターたちは、大統領の演説を書ける人たちと言われるくらい特別な訓練を受けた人たちです。

 そういう人たちだから、やさしいレベルの英文が書けるのです。そういった訓練を受けていない日本の英語の先生たちには、そういう芸当は無理だと言えるでしょう。

 ですから、ふつうの単語レベルの英語を使って先生が授業をやれば、生徒たちが理解できず、生徒たちが理解できるようなやさしい単語を使おうとすれば、先生たちに大きな負担がかかるという、堂々巡りになってしまうわけです。

 つまり、「英語の授業は英語で行う」というのは、結局できないということなのです。
posted by 赤井田拓弥 at 20:12| Comment(0) | 生活英語
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